「種蒔き」グリーンピース編(2021)
ある風の強い日の午後。
母弟子Tは、到来が迫っている玉ねぎ苗の為、畑を必死で耕しておりました。
苗は入手したら、出来るだけ早く植え付けてしまいたいものです。
母弟子邸で保管中、思いがけず枯らしてしまう・・・。そんなの考えるだけで嫌。
そこに師匠が現れます。
夏の最中に入院された師匠は、退院後は畑に来る頻度を減らしています。
午後はあまり作業はしないと仰っていましたが、師匠宅の前を足早に通り過ぎる、
母弟子の姿をキャッチしたのでしょうか。
「おぅ、やっとるな!」
師匠は母弟子の耕しっぷりを見て、笑います。
「よくまぁ、玉ねぎの為にこんなに深く掘ったなぁ。見たことねぇな。」
「しかし、ようやったな!そこまでやるのも大変だったろう。」
玉ねぎは土の上に、あの丸いのが出来上がります。
なので、土の下の方は、そんなに下の方まで柔らかくなくてもOKなのです。
「最初に言っておいてくださいよ。」
でも、母弟子は同じ深さで掘り続けます。途中から浅く耕すなんて、なんだか中途半端。
深いなら全て深く。
作業が終わりに近づいた頃、ご自身の畑から師匠がこちらにいらっしゃいます。
さて、ここからグリーンピースの話。
師匠はおもむろにポケットから何かを取り出し、母弟子に授けます。
「グリーンピース」と「さやえんどう」の種。
母弟子が苦手とするサヤ系です。
以前師匠は仰っていました。
「豆の種が余ってるから、今度やるからな。」
種には有効期限があり、今年余った種を来年撒くことは、あまりしないようです。
種にも鮮度、蒔かれ時があるのです。
苦手系の野菜の種であっても、ありがたく頂戴します。
弟子は師匠の気持ちを大切に受け取るものです。
師匠がこの冬栽培するものを、弟子も栽培するのが賢いやり方なのです。
(やるとしたら、玉ねぎの植え付けが終わってからだな・・・)
(第3畑のキュウリ引っこ抜いた跡地に植えるのが一番楽かな・・・)
母弟子は心の中で、一番楽な方法を考えます。
「おぅ、どこに植える予定だ?第1畑はダメだぞ。スナップエンドウで大コケしてるからな。
あそこの土はエンドウ豆には向いとらん。」
「大玉トマト植えていた跡地なんか良いと思うぞ。土も柔らかくなってるし。わしならあそこに植えるな。」
師匠が結論を出しました。
こんな時、弟子は自分の考えを主張しないことです。
この一帯の土壌を知り尽くした師匠が指定した、最適な場所なのです。
大玉トマトの跡地に植えることにしました。
玉ねぎの植え付けが終わったら。
「よし!シャベルと苦土石灰持って来い。8:8:8と鶏糞もな。」
・・・・
師匠は只今から種を植える気です。
母弟子は、深く畑を耕したところです。余力は残っているでしょうか・・・
しかしやるのです。
第3畑の大玉トマト跡地に向かいます。
だんだん第4畑のジャガイモ(アンデスレッド)も視界に入ってきます。
「おぉ!ちゃんと土寄せやってるやないか。」
師匠からお褒めの言葉です。
「2日前にやりました。でも今日の強風で、ちょっと倒れそうですね。」
どれどれ。
師匠がジャガイモに近づきます。
「こんなの土寄せじゃねぇ!もっともっと土を盛るんだ!鍬、持って来い!」
グリーンピースを植える前に、ジャガイモの土寄せをします。
するとどうでしょう。
母弟子Tが無くしたハサミを、師匠が土の中から掘り出したではないですか。
なぜこんな場所から。全く検討違いの場所を探していました。
まさか・・・
師匠が・・・
「たわけたことを!」 by師匠
ジャガイモの土寄せを終わらせ、いざグリーンピースです。
「シャベル持って来い。2人でやっちまえば、これくらいの広さ、あっという間だ。」
1本持っていきます。他の2本は第1畑にあります。
「なんだ!1本しかないのか!何をやっとる!」
「第1畑も頑張って耕しているんですってば。」
師匠は一人で掘り起こします。
母弟子は苦土石灰と肥料を撒きます。
愛読書には、苦土石灰と肥料は同時に撒かない、と書いてあります。
化学反応が起こって、何やら野菜には良くない何かが出来てしまうと。
関係ありません。
今までだってそうやって野菜を収穫して来たのです。
師匠が指示したことを、弟子は淡々とこなして行けば良いのです。
師匠が先ほどから腕にはめている時計を、頻繁にチェックしています。
これはいけません、水戸黄門の時間が迫っている合図です。
「師匠、後は私に任せて、水戸黄門を見にお帰りになってください。」
「任せられるか!やっちまうぞ!」
「続きは今度にしましょうよ。」
「何言っとるか!今晩雨が降るんだ。だからその前に種蒔いちまうのが良いんだ!」
「でも水戸黄門、見逃してしまいますよ。」
「本当に間に合わなくなりそうだったら、わしゃ、すっといなくなるから。」
母弟子はリュックの元に急ぎます。スマホを取りに。
出来上がった畝の様子、植える種の様子、全部記録に残すのです。
「こんな時間のない時に、写真撮ってる場合か!」
師匠の言葉は聞き流します。撮ってる場合ですから。
さて。
無事、師匠は水戸黄門が始まる時間に、ご自宅に戻ることが出来ました。
思いがけず育てることになったグリーンピース。
もしかしたら、モロッコ豆と同じようなミラクルを、起こしてくれるかも知れません。
ではまた👋