勇気ある撤退(トマト編③)2021
勇気ある撤退(トマト編②)の続き
勇気ある撤退(トマト編③)
ある朝。
母弟子は第1畑のトマトに異変を感じます。
「何者かが、ミニトマトを食べている・・・」
もちろん人間ではないでしょう。大抵、人はミニトマトは一口で食べるものです。
第1畑のミニトマトは、赤くなり始めた美味しいところばかり、少しずつ食べられているのです。
母弟子はピンときました。
2021年の3月頃、初めての収穫を楽しみに育てていた、ブロッコリーとキャベツを食べたやつだ・・
「鳥だ!」「おのれ!」
母弟子達の苦労の結晶である野菜を、母弟子達に代わって食べてしまうことは、許されないのです。
母弟子は、隣畑の準師匠に聞いてみました。
「トマトが鳥に食べられてしまうのです。どうしたら良いでしょう?」
準師匠は仰いました。
「トマト食べてるの、鳥じゃないわよ、カナブンよ」
!!!
なんということでしょう。
よく見ると、カナブンがここでもあそこでもお食事しているではないですか・・・
後日。
師匠が大きな声で、母弟子達に呼びかけます。
「おぅ!トマト食ってるのは、カナブンだけじゃないぞ!」
大玉トマトに近寄って見れば、そこには、カナブンに混じって、キングオブ昆虫のカブトムシが。
「わぁぁ💕」
カブトムシの姿を見て、母弟子Tの心は弾みます。
母弟子Tは小さな頃からカブトムシやクワガタが好きでした。でも、昆虫は男子の特権。
そして、お金を出して虫を買ってくれる家庭には育っていません。
たった一度だけ、どのようなルートで入手したかは覚えていませんが、カブトムシを飼ったことがあります。
しかし、それ以外は飼うことは叶わず、憧れを胸に持ち続けているのです。
まさか、その憧れが、この夏、ついに、終わりを、迎える、とは・・・
偶然現れた1匹と思っていたカブトムシは、クチコミでしょうか、
日を重ねるごとにその数を増やしていき、1日で13匹も捕まえてしまったりするのです。
早朝5時に、第3畑にキュウリを収穫に来た母弟子Sも、証言しています。
1個のトマトに4匹のカブトムシが、争う様子も無く仲良く並んで、美味しそうに食べていたと。
「争う必要なんてない。ここには食べきれないほどのトマトがあるんだから」
そんな感じでしょうか。
野菜作りの本には、害虫は見つけ次第「捕殺」と記載されています。
さらっと書いてありますが、「捕殺」はなかなか勇気が必要な行いです。
刺したり噛んだりする害虫は、「えぇ〜い!!」とか「ぎゃー」とか言いながら、
気合いで捕殺することも出来るには出来ます。その時も、一発で勝負をつける捨身の攻撃が必要です。
でも、カブトムシは害虫なのでしょうか・・・?
師匠に尋ねます。
「どうしたら良いでしょう?」
師匠は答えます。
「食べられる前に収穫すればええ」
準師匠にも尋ねてみます。
「食べられる前に採るんだわ」
食うか食われるか。早いもの勝ち。
それからも、カブトムシは現れ続けます。近所のお子様達にも配れるだけ配って、もう捕獲しても貰い手がありません。
そしてトマトの横で栽培している、スイカの防鳥ネットにもカブトムシがかかるようになり、母弟子の心は千々に乱れるのです。
助けるべきか、否か・・・
母弟子はカブトムシの救出を試みます。見捨てることは出来ません。
カブトムシの足は、非常に引っかかりやすい構造をしており、簡単にネットから外すことが出来ません。
離れたところから様子を見ていた師匠が仰いました。
「ネットを切ればええ」
ネットは師匠からお借りしているものです。ハサミで切ったら、ネットとしての役割を果たさなくなってしまうでしょう。
「切ればええんだ。元に戻して返せなんて、野暮なことは言わん」
その後もカブトムシはかかり続け、ネットは至る所に穴が開いたのです。
「大事なトマト食われてるのに、お優しいこったなぁ!」
呆れた様子を見せながらも、師匠は「ほれ、これで少しは気が済むか」と言って、
トマトにもネットをかけて下さいました。
そのネットは、トマトの背丈の半分もなく、カブトムシならどこからでも侵入できる作りになっています。
そして、カブトムシはどこからでも侵入してトマトを食べていったのです。
やれることはやりました。
母弟子達は、残り全てをカブトムシに譲ることにして、トマトの栽培を終了したのです。
この戦いから得た教訓は、「トマトはハウス栽培か、家庭菜園やベランダで育てる方が良さそうだ」ということです。
自然豊かな森の中にある畑で栽培するのは、不向きかも知れません。
そもそも、カブトムシは先祖代々この畑の周辺に住んでいるのでしょう。
そこに生えている柿やビワを食べたりして、腹を満たして、命を次に繋いで来たのでしょう。
今年は偶然、トマトが実っていた。だから食べたまで。
トマトを植えた私達が、カブトムシのテリトリーに足を踏み入れたのです。
そうかそうか。
もしかしたら、カブトムシはカブトムシで「我らのトマトを取りに来るやつがいる」と思っていたのかもしれません。
知る術はありませんが。
「来年は、食べたい人は自分の庭で作ろう」
戦いを終えて、母弟子達は頷き合いました。
ただ、カブトムシとカナブンから分けて頂いた数個のトマトは、本当に濃厚で美味しいものでした。
美味しく作れていたのは間違い無いでしょう。だから虫達が沢山食べた。
そういうことなのでしょう。
勇気ある撤退(トマト編)完
ではまた👋